映画好きで知られる落語家の桂米紫が大阪・茨木市で続けている古典落語とクラシカルシネマのコラボ企画「茨木コテン劇場」が7月10日に開催される。大阪・十三のシアターセブンから会場を移して4回目となる今回は、米紫が古典落語の「お花半七」を演じ、映画はフランク・キャプラ監督の名作「或る夜の出来事」(1934年)が上映される。
米紫 子どもの頃に親に映画館に連れて行ってもらって、中学生の頃からは1人で映画館に観に行っていました。地元の京都にはいい映画館があったんですよ。高校の頃はビデオとかも含めて、年間300本以上観てましたね。当時観た映画のリストをつけてたんですけど、その中で自分なりの決まりがあって、テレビの吹き替えやカットされてるものは観た作品に含めないと決めてたんですよ。
熱烈な映画ファンの少年は、映画の道を志し、映画塾へ。だが、塾で学んでいた時に見た落語に魅了され、1994年に桂塩鯛(当時は桂都丸)に入門。落語家への道を歩み出した。修業時代は映画から遠ざかっていたが、苦しい時を映画が助けてくれた。
米紫 修業中の3年間は映画を観る時間がなかったので、ほとんど観てないです。後にも先にも1回だけなんですけど、ある時、修業中にどえらい怒られて、「帰れ!」と言われた時に「辞めます」と言ったんです。師匠はそれまで「俺は去る者は追えへんから、辞めたくなったらいつでも辞めろ。止めへんから」と言ってたけど、初めて「辞めます」と言った時に、「まぁ、待て。いっぺん家に帰って考えて明日、来なさい。今日はとりあえず、帰り」って。修業中は毎朝8時半に師匠の家に行って、落語会がない時は夕方まで、落語会のある時は夜まででしたが、その日は昼くらいに帰って。時間があるのでどうしようと思って、その時に「映画に行こう」と思い立ったんです。たまたま入った映画館で見た映画を観終えて、落語家を続けようと思ったのを覚えています。逆風に立ち向かい、夢に向かって努力を積んでいく話で、ちょうど自分も逆風を感じている状況だったので。ひょっとしたら、その日にその映画を観ていなかったら落語家を辞めていたかもしれません。映画は人生を変えるかもしれないです。
この企画では毎回、テーマを決め、米紫が古典落語を一席演じ、名作の映画が1本上演される形をとっている。今回のテーマは「合縁奇縁! 恋はいつでも偶然に」。落語は幼馴染の2人の恋物語「お花半七」、映画はクラーク・ゲーブルとクローデット・コルベール出演のロマンティック・コメディ「在る夜の出来事」が上演される。
米紫 落語には男女の出会いの噺があまりないんですよね。映画のジャンルの1つに「スクリューボール・コメディ」と言う言葉があって、男女の出会いを軽妙に描いたコメディなんですが、「お花半七」はまさにこれだなという気がして。「お花半七」は東京の噺なんですが、ちょっと違う感じでやりたくて、自分で脚色してやっています。この噺はカメラワークが面白いというか、映像的魅力に満ちた噺だなと。映画好きの人にも頭の中でイメージを広げていただけて、落語って映画みたいなんやって思ってもらいたいと思います。
この会では毎回、米紫がその映画のエピソードなどを熱く語る「落語家的ミニミニ映画解説」を行っている。
米紫 解説にはめちゃくちゃ力が入りますね。面白いエピソードがいろいろありますし、もう、今から考えています! 今回の映画はコメディなので、特に落語ファンが楽しめると思います。シャレた映画と「お花半七」との共通点を見つけてニヤニヤしてもらいたいです。映画と落語ってファン層は違いますけど、「鑑賞するもの」という意味では同じです。見れば、「こんなおもしろい映画あるんや」とか、「落語っておもしろいな」と言ってもらえると思うんです。
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「茨木コテン劇場」
7/10(日) 開演=13:00
料金=一般2000 65歳・障がい者&その介助者1800
高校以下1000(全指)
会場=茨木市市民総合センタークリエイトセンター
センターホール(JR「茨木」,阪急「茨木市」)
https://www.ibabun.jp/about/access/
出演=米紫「お花半七」
映画「或る夜の出来事」
(1934年/アメリカ/モノクロ/105分)
監督=フランク・キャプラ
出演=クラーク・ゲーブルクローデット・コルベール/他
問い合わせ=茨木市文化振興財団:072-625-3055
https://www.ibabun.jp/event/20220710/
桂米紫 1994年3月、桂塩鯛(当時は都丸)に入門し、とんぼ。
1997年に都んぼに改名、2010年8月6日に四代目桂米紫を襲名。