2016年11月4日金曜日

「中村仲蔵ふたたび」(11月5日)

桂よね吉が昨年12月の京都を皮切りに福岡、東京、大阪の4都市で開催した芸歴20周年記念独演会ツアーが好評を博したのを受けて、115日に大阪・淀屋橋の朝日生命ホールでアンコール公演を行う。よね吉が20周年の記念公演の演目として、京都、東京、大阪で演じたのは芝居噺の「中村仲蔵」。アンコール公演では再びこの噺に挑む。





よね吉 京都、福岡、東京、大阪の4公演すべてに来てくださった方もいらして、ありがたい限りでした。「中村仲蔵」を聞き逃した方から、「もうやらないんですか」と言われ、アンコール公演をすることにしました。

「中村仲蔵」は門閥が主軸となる歌舞伎界の中で、大部屋からトップの名題へ破格の出世をとげた実在の歌舞伎役者をモデルにした感動作だ。

よね吉 梨園の人間ではない仲蔵が紆余曲折もあるんですけど、人との縁を通して後世に残るような型を作るんですね。それは今でもみられる歌舞伎の型で、そんな昔の役者が考え出したことなんだと。決して恵まれていたわけではなく、しんどい思いをしながら世に送り出したというのをお客さんにもわかってほしいなと思いまして。私も初めて聞いた時にワクワクしましたし、お芝居好きの方にはたまらない演目だと思います。

よね吉は狂言師の十四世茂山千五郎とタッグを組んだ公演「笑えない会」を毎年開催し、そこで「中村仲蔵」を始め、「帯久」や「文七元結」、「百年目」などの大ネタに次々と挑んでいる。

よね吉 ここ数年、長講をやっていまして、こういう路線が好きなんだなぁというのがありますし、これからもやっていきたいと思うんです。今年おろした「本能寺」もそうですけど、いろんなネタがフィードバックされている感じがするんですよね。この4つ、5つのネタを演ってからの「立ち切れ」も全く違うものになりましたし。師匠方がおっしゃっていたこともそういうことなのかなと。1つのネタだけで成長するのは難しい。複数のネタでいろんなところをやって初めて、今までやったネタがまた変わってくるということがすごくわかった何年かだったんです。

その中で、20周年の記念の演目に選んだ「中村仲蔵」にはまた特別な思いがある。

よね吉 「中村仲蔵」は自分でもいろいろ工夫しました。元々入っていないハメモノを入れたり、歌舞伎の方たちの話を聞いたりしまして。やっぱり思い入れが大きいネタだったんですね。聞いたあとに嫌な思いをしない。しっかり聞いたなというのと、いい方向に向かう噺ですので、20周年の記念にはいいんじゃないかと思って選んだんです。

「中村仲蔵」との出会いは8年ほど前。東京の三遊亭圓王が演じるのを見て、「いずれやりたい」と思っていたという。

よね吉 上方で「中村仲蔵」はできへんやろなと思っていたら、露の新治師匠がされるというチラシを見て会にお邪魔して聞かせていただいたんです。その日のうちにお稽古をお願いしました。新治師匠からは(露の)一門以外には出さないと言われまして。でも、まわりの方から口添えをいただき、お稽古をしていただくことになりました。

よね吉は習った噺に自分なりの工夫や解釈を入れ、噺を練り上げてきた。





よね吉 失敗の連続でした。これはうまくいかない、あれもうまくいかないで…。で、どこでもやってたんですよ(笑)。やっていくうちに自分になじんできて。これからも進化させていきます。それに、年齢とともに変わっていくのかなとも思うんです。

よね吉の芝居噺に大きな影響を与えているのは歌舞伎役者の中村時蔵の存在だ。歌舞伎好きのよね吉と親交があり、東京と京都の会には忙しい合間を縫って、ゲスト出演してもらった。

よね吉 芝居のところはかなり想像でやっていたところがあったのですが、時蔵さんからいろんなお話を聞かせていただいて、とても勉強になりました。時蔵さんとの出会いがあったのは本当にありがたいです。「本能寺」も時蔵さんに聞いていただきました。楽屋にも行かせていただきますので、いろいろ拝見することがフィードバックされるんだと思います。それが落語にも表れて、空気感が変わってきていますね。

独演会ツアーではゲストの中村時蔵や笑福亭鶴瓶との対談や十四世茂山千五郎、宗彦の落語などが行われたが、アンコール公演では落語と狂言のコラボレーション「落言(らくげん)」が披露される。2001年に落語作家の小佐田定雄が書き下ろした作品をよね吉の師匠の桂吉朝と先代の茂山千五郎、茂山七五三、茂山あきらが演じるスタイルでスタート。吉朝が亡くなった後は米団治、現在は文之助が後を継いで回を重ね、斬新で爆笑を呼ぶ舞台は毎回、人気を集めている。今回はよね吉と茂山家の当代茂山千五郎、茂山茂、茂山童司ら次世代のメンバーで上演する。

よね吉 元々、うちの師匠の吉朝がやっていたこともありましたし、今回は継ぐという意味でいいんじゃないかと。千五郎さんも今年9月に(茂山正邦から)十四世千五郎を襲名しましたし。千五郎さんとはもう156年の付き合いになるんですが、そのつきあいがあってこそ、これができるんだと思います。落語と狂言という別の分野ですが、遠慮なく意見を言い合える。ありがたいなと思います。千五郎さんは今、襲名公演が続いていて忙しい中、時間をさいて出てくれるというのが嬉しいです。この友情を大事にしていきたいなと思っています。「落言」も続けていきたいです。

よね吉が力を込める「中村仲蔵」と今後もと願う次世代の「落言」がアンコール公演の大きな柱となっている。

よね吉 お客さまは「中村仲蔵」を聞いて自分たちの人生にいろいろと重ね合わせるそうなんです。この噺がそういう風に人生の何かの足しになったり、何か考えるところがあるんであれば嬉しいですし、僕自身、この噺の中に自分を映し込めたらいいなと思っています。





「中村仲蔵ふたたび」 

11/5()  開演=17:30
◆朝日生命ホール(地下鉄「淀屋橋」⑫)
料金=前売 3500 当4000(全指)
よね吉「中村仲蔵」
落言「神棚」出演=よね吉 
ゲスト=十四世茂山千五郎/茂山茂/茂山童司

問い合わせ=米朝事務所:06-6365-8281