2017年12月27日水曜日

「立川談春独演会」(12/28)

東京の立川談春が大阪のフェスティバルホールで毎年年末に開催している恒例の独演会が今年も開かれる。談春は2015年から毎年、この会場でこの噺を演じ重ねてきた。今年はその「芝浜」に加えて「文七元結」を披露する。ともに師走の夫婦の情愛を描いた東京の人情噺の大ネタだ。落語の世界では趣向の会でない限り、似た噺は「ネタがつく」と言って演じないのがルールだが、今回は敢えてその2席を選んだ。


 写真:鈴木心


談春 「文七」と「芝浜」。やる方もたいへんですけど、聞く方も胃もたれしますよね。でも、2700人という空間でやればもたれないでしょうね。それが落語なのかって言われるとね、「落語です」という確信は正直ないーですよね。でも、見世物だっていうんなら、見ても面白いんじゃないですかね。もっと言うと、フェス(フェスティバルホール)じゃないとできないことです。

-独演会で全国を回る一方、TBSのドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」(2014)や「下町ロケット」(2015)で好演を見せ、今年7月には映画「忍びの国」にも出演。俳優としての新境地を拓くほか、司会などでも幅広い活躍を見せている。


談春 1年の間にいろんなご縁があって、いろんな人と出会ったり、いろんな種類の仕事をしたり。そうすると、例えば演出一つとっても、ドラマや映画はこうやってやっているんだっていうのが勉強になりますよね。正直、その手法を落語に適した大きさのホールでやったら、それはバカみたいにでっかいホールでやる俺の会よりももっと違和感があるでしょう。とてもじゃないけど、胃もたれするし、落語の世界でいう「つくネタ」なんだろうし。でも、見世物として談春を見るのがひとつ。見世物なら派手な方がいいでしょ? あとはやりたかったの。談志がね、談志の「芝浜」を聞いて俺が弟子になるって言った。同じ日に、同じ会場の「芝浜」を聞いて、志の輔もサラリーマンを辞めて弟子になった。それは談志の30周年記念の独演会だった。45歳くらいの頃の談志かなぁ。やっぱりそれはとっても強烈な印象があって、1席目に「富久」やって、2席目に「芝浜」をやった。あのまんまやるのはあれなんで…、(今回)同じような噺を、やる。それはやっぱり、フェスを借りたことと一緒です。僕は自分の憧れに準じて人生を送っていくって決めたんで。人に憧れる人生なんで。50過ぎて、(今年は談志の)7回忌で。やっぱり会場選びますよ。「芝浜」と「文七」って言ったら。それがフェスなら、それだけやっても普通の落語会になっちゃうかもしれない。でもそれを受け止めてくれて、それでも、まだ届かないかもしれないという恐怖を覚える会場はフェスティバルホールしかなかった。

-20081225日、談春は世界の名だたる音楽家が称賛する旧フェスティバルホール閉館の特別企画の一環としてホール史上初の大独演会を開催した。談春にとっても憧れだったフェスティバルホールで演じた「芝浜」は超満員の2700人の観客に感動をもたらし、今も語り継がれる伝説の舞台となった。

談春 なんで、ここでやってるのですかと言われれば、憧れとしか言いようがない。あそこに立ちたかった。あそこで正座して、落語やったらどうなるんだっていう。でも、それを許してくれるかどうか、チケットを買ってくれるかどうかって話じゃないですか。それが、今年は7回目だそうですから。7回やらしてもらったんなら、それは10年、20年続けていきたいけど、来年があるかどうかわからないし。もし、今年で終わっちゃったら、お前やっときゃよかったっていう心残りの企画はないのっていった時に、今年それをやるってことですね。正直、今年で僕の中のフェスティバルホールへの憧れは1つの区切りだと思っています。憧れてるけど、憧れはやめないけど、続けるけど、憧れて「夢だったんです」っていうセリフで許される年齢、キャリアではないのかなっていうことを考えた時に、何をやると言われた時に「芝浜」だけじゃなく、「文七」。その2席をやったら、最後列の両端のお客さんにも届くのかなっていう。やっぱりやってるうちには慣れるし。出囃子が鳴っても震えてた最初の時から考えれば、図太くなってますよね、それは私だけじゃない。人間がそうなんでしょう。そういう意味での、落語家ができる中でのすごくたいへんな背伸び、並びに冒険はみんな、してらっしゃいますよね。「文七元結」をざこば師匠がやったりとか、「五貫裁き」を南光師匠がやったりとかね。その意味での落語の芸としての冒険はみんながするようになった。素晴らしいことだと思います。

-「芝浜」と「文七元結」の2席を大阪で演じる。「大阪を第2のホーム」と公言する談春の大阪への思いは強い。

談春 観客でもない、フェスでもない、落語に跳ね返されるかもしれない。違うんだよ、一緒にやっちゃいけないんだよ。それは落語だけじゃないでしょ。会席だって何のためにコースがあるのか。まぁ500人の宴会で会席は出さないからね。3人ならもてなせるかもしれないけど。東京でまったくやらないで大阪でやるっていうのが、俺にとっては大阪に対する愛情表現ですね。大阪という土地に対するね。俺はやっぱり大阪で売ってもらったもん。中村屋(中村勘十郎)が同じこと言ってた。「俺は大阪で売れた人間だよ」って。親父が死んだあと、何の役もつかなくて、「四谷怪談」を大阪でやって。「俺、大阪に売ってもらったんだよ、だから、ハル(談春)さん、大阪でやるのすごくよくわかるよ」って言ってくれた。本当にそう。

-2700人キャパの大ホール、フェスティバルホールで「独演会」を開いていたのは唯一、談春だけだったが、2015年に上方の桂春蝶が独演会を開催し、満員御礼の大成功をおさめた。

談春 春蝶が借りるのは、もっと後だと思ってた。自分がやって10年たたないうちに、「僕もフェス借りようと思うんですけど、アドバイスください」って言ってきた時にやっぱり驚いた。後進が、フェスで勝負したいっていうやつが出てきた。嬉しい反面、それが出てきたのなら、次のステップを踏もうとしているふりぐらいしないとね()。お客さんも許してくれないでしょう。伝統芸能やってる人間の思い上がりでね、それが伝統のすごさなんですけどね。うまくなると思ってるんだよ。51歳ですら、まだここが俺の完成形じゃないと思ってる。まだうまくなると思ってる。まぁ、そう思ってるから次の会に出れるんですけどね。明日の会にね。もし、今が俺のいきどまりで、あとは下降していくだけだったら、お前どうすんのっていうのがあったの。もしかしたらお前のピークここかもしれないよと。体力的にも才能も、もしかしたら寿命まで。いつやるの、大事にとってるけど、そのカード。お前が大事に温めてるほどの切り札かと。「芝浜」と「文七」を一緒にやるっていうことが。お前にとっての切り札だったものが本当に世の中の人に価値を感じてもらえるのか。結果、評価を下してもらうのに、フェスが最高の場だったってこと。どうやったって落語ファンだけでいっぱいにならないもん。落語ファンだけでいっぱいになるとこでそれをやったって、必ず、落語を聴いたことがない人のとこでまたやりたくなるんだから()

-落語会は開催されていたものの、定席の天満天神繁昌亭がやっと2006年にオープンした大阪と、昔から寄席がいくつもあり、落語を見に行くことが特別ではない土壌がある東京では状況が少し違う。その大阪の大ホールでの独演会はある意味、冒険でもあったはずだ。

談春 繁昌亭と新しい神戸の寄席(喜楽館、2018年夏に開場予定)よりは冒険じゃねぇだろう。向こうの方がすごい。繁昌亭のお客さんが減ったと言ってるけど、軌道に乗っただけじゃなくて、利潤もあげてるし。それはすごいことだろうと。そりゃ、俺もできうる限りどころか、できない芸までやろうと思ってますけど。見世物ですよ()。でも、ドラマ出たって、映画出たって、コメンテーターやろうが司会やろうが、誰も面と向かって文句は言わないよね? 「落語にお客さん呼ぼうとしてるんだね、頑張ってるね」なんて、うわべかもしれないけど、誰が出てもみんな言うよね。2700人に届けるために、俺より汗かいているスタッフがいて、個人芸の総合芸術にしようとしているわけでしょ。一人じゃできねぇんだから。落語を総合芸術にしてどうするんだっていうのはまた別の話。小池(百合子)さんと一緒だよね。1人でできる限界以上のことをやってる。睡眠時間を削ってね。だけど1人ではできないことがある。頭脳も体力も限界でやってても、それでも1人ではできない。だから政党を創ろうと思ったら、任せなきゃいけない。そのために人を育てなきゃいけない。プレーヤーとしての限界はやってるけど、プレーヤーとして一流になると、リーダーとしての資質を求められて、それはある意味プレーヤーとは違うものですね。だけどリーダーとしての資質、人としての器を問われた人だけ、そしてそれをクリアした人だけが「超一流」って言われるから。自分が「超一流」になりたいとか思ってないし、「超一流」を目指しているわけでもなんでもないけれど、売ってくれたからね、大阪に対する恩返しをしようと思った時に、今の俺には見世物しか思い浮かばなかった。志の輔のやってることは総合芸術だけど。わかったような振りしても、まだ個人芸に可能性があるんじゃないか、まだ落語には力があるんじゃないかと思ってる。そこは信じないとフェスではできないですよね。俺じゃないもの。「芝浜」と「文七」に頼るんだから()

「立川談春独演会」
12/28()  開演=18:30
会場=フェスティバルホール(地下鉄「肥後橋」)
料金=S5400 A3780(全指)
出演=立川談春「芝浜」「文七元結」
問い合わせ=キョードーインフォメーション: 0570-200-888